がんばれ!小さなキミ [主として生命・自然との関わり]

■がんばれ!小さなキミ

夏休み明けのまだ暑い日のことです。学校はこの日も朝から息つく暇のない忙しい日でした。先生も生徒たちも夏休み明けテスト、診断テスト、職場体験学習の生徒や事業所からの電話対応など忙しく動き回っていました。そんな喧噪の中、赤いレンガの上に座り込んでいるキミがいました。足早に生徒や先生が行き交う渡り廊下のすぐ横で、まるで一人だけ時間が止まったように身じろぎもせずにです。最初にキミを見たのが誰かは分かりません。忙しくて誰も気づかなかったのでしょう。でも技能員さんはキミを見つけました。そして、知らせてくれました。キミのところへ。やはりまったく動かないキミ。死んでいるのを見るのもつらいですが、この状態はもっとつらいものです。窓にぶつかった?天敵に襲われた?・・・。ちょっとした怪我でも、私たちには助ける術と時間がありません。人ならともく、小動物にはどうすることもできません。キミはこのまま衰弱して息絶えるのでしょう。

そんなとき、キミはほんの少し動いて見せました。「水をやってみよう」。技能員さんは諦めていませんでした。私たちは、紙コップをハサミで切り、水を入れて、キミのくちばし近くにそっとおきました。でも、キミは飲もうともしない。警戒しているのでしょうか。あるいは、飲む力もないのかもしれません。何かを言いたげな目だけが開いています。もう、そっとしておこう。私があきらめかけたとき、技能員さんは、指に水を浸し、くちばしに水滴をもっていきました。何度も何度も。彼は、まだ、あきらめていませんでした。そして、最後、とうとうくちばしを少し開けて、キミは水滴を口の中に入れることに成功しまた。

彼は保健所の電話番号を教えてほしい、連絡していいかと私に問いました。電話すると香川県野生鳥獣保護センターにまわされました。正直、キミだけのために動いてくれるとはとても思えませんでした。ところが違いました。「(持ち込みが原則ですが学校内という特殊な事情から)保護しに行きます」との回答。ここにも命をあきらめない人がいました。ありがたい。二人は大きく安堵しました。

そうこうしているうちに、キミはいつの間にか姿を消してしまいました。近くを二人で捜しましたがいません。復活したのでしょうか。あの一滴の水が、小さな身体のキミには命の一滴だったのかもしれません。もちろん鳥獣保護センターの方にはお断りとお礼の連絡をしました。

何か試されたような気分です。正直に言うと、仕事とキミのどちらを優先すべきか、迷いながら対応していました。そんな自分が恥ずかしくなりました。命をあきらめないことを伝えるのは学校の大切な仕事。日々の喧噪の中、大切な順番を忘れてしまうところでした。小さなキミのおかげです。どこかで元気に䍾んでくれていること、そして少しでも長き生きしてくれることを願っています。がんばれ!小さなキミ。メジロ君。
(T教頭記録『がんばれ!小さなキミ』より)

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